㈱トムコ発行の情報紙(1996年~2019年発行)に掲載されたつぶやきから抜粋して随時皆様にお届けします。
今回は2001年7月のコラムです。娘が中学生になった。大きくなったものだという喜びはあまりない。むしろその逆で、ネバーランドの発想になる時がある。大きくなって傷ついたり悩んだりするくらいなら、無心で遊んでいたあの小さいままでいてくれた方がなぁと。しかし当の娘は今を楽しんでいる。悪く言えば今が楽しければいいとも言える生活ぶりだ。
4月の下旬、中学での部活は何にするかで家庭が揺れた。母、父、娘それぞれの意見が違った。娘は学校以外にいくつかの習い事をしている。その為、土日も夏休みも大方がつぶれる。ところが部活はバスケットをやりたいという。しかも、どの習い事も絶対に続けると言い張る。無理なような気がして話し合った。「どれも中途半端になるで。集中して何かに取り組む方が得るものは大きいと思うけど。それにあんたを客観的に見て運動部が向いていると思わへん。あんたのこれからの人生を豊かにしてくれるのは、あんたの感受性のいいところを伸ばす文化系やと思うけど」
涙ぐんで聞いている娘を見て、母親が言った。「お母さんもバスケは向いてないと思うけど決めるのはあんたやから。せっかく続けてきたことを辞めるのも惜しいし、まぁやってみてあかんかったら変わるとか・・・」
「勿論最終的に決めるのはこの子やで。だけどお互いが価値観をぶつけ合うことをしないのなら一緒に住む意味がないやろ。それに、“やめてもいいやん”っていう気でやるのはぼくは好きじゃない」2、3日時間が過ぎるのも忘れて話し合った。結局娘はバスケット部を選び、他の習い事も続けている。9時半に寝ていた子が、今では私たちよりも遅くまで起きている。今の年頃、友達の影響が大きいのだろうなと思うが、娘の選択に文句を言うつもりはない。私達が失望していることは知っている。それだけでいい。だけど、私はこれからも自分の価値観を伝えることはやめない。なんで中学校に振り回されなあかんねんとか、あーぁ、運動部って軍隊みたいでいややなとか、友達と一緒でないとあかんというのはおかしいで、人と違うこと・自分らしさに誇りを持たんととか。娘は黙って聞いているが、やっぱり今を楽しんでいる。今がすべてだ。それでいいと思う。かつて私もそうだった。そして大方はそれで良かった。
~岸本進一先生PROFILE~
神戸市北区在住の児童文学者。著書「ノックアウトのその後で」(理論社)にて1996年日本児童文芸家協会新人賞受賞。その他、ひだまりいろのチョーク(理論社)・とうちゃんのオカリナ(汐文社)・はるになたらいく(くもん出版)など、著書多数。
小学校教諭として23年間勤務。故灰谷健次郎氏と長年親交があり、太陽の子保育園の理事長も勤めた。
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Radish STYLE編集部
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