私は世界200弱ある国の中で、たったの20数か国しか行っていない。それぞれの国に思い出はあるが、中でも際立つのは、10度は行ったカンボジアのアンコールワット遺跡群だろう。私は風景に感動することはあまりなく、風俗や人の手で作られた造形物に感動することが多い。エジプトのピラミッド群。インドネシアのボロブドール、プランバナンの遺跡群。インドのタージマハールの神殿。ミャンマーのバガン遺跡群。等々、一度もカメラに収めたことはないが、胸にしっかりと焼き付いているし、手足の感覚に残っている。タージマハールの大理石の冷たさ、アンコール遺跡のレリーフの熱さ。バガン遺跡の頭を突き刺す日差し。きっと私がボケ老人になっても、その映像や感触を心の中で咀嚼しているような気がする。それに劣らず風俗が面白い。トルコの市場やタイのウィークエンドマーケットの雑踏、それに掛け声。そこで働くおばちゃんたちの休むことのない働きぶり。タイの人たちの手を合わせて首を振るコップンカー(ありがとう)の優しい響き。アンコールワットの40℃を超える中でひたすら自転車をこぐ車夫たちの汗。やはり心の中のまーるい空間に残り続けている。そして帰国すると、どうしても私は心を閉ざしてしまい、引き籠りがちになる。ところがふとした日常の中で、それら旅の思い出が蘇って来る。つい昨日も、空腹で飲んだ一口の焼酎がじわーっと腹にしみた。思わず「ああ、もう一度アンコールワットへ行きたい」と叫んでしまい、女房に驚かれた。アンコール遺跡を回り、汗でべとついた体をシャワーで流し、安っぽいきらびやかなネオン街を見ながら一人飲むビールの腹にしみていくのがフラッシュバックしてきたのだ。
私は日本という国が好きだ。しかし心底好きだと言い切れないのかもしれない。その理由の大きな二つがつい最近ニュースになった。
一つはノーベル平和賞の受賞だ。今年は日本の被団協(日本原水爆被害者団体協議会)が受賞した。これには世界から核兵器をなくさなければというメッセージと同時に、今世界で起こっている争いの中で原水爆を使わせないようくぎを刺す意味もあったのだろう。ただ、皮肉なことに日本は世界80か国以上が批准している「核兵器禁止条約」を批准していない。唯一の被爆国なのに。いかに核の傘下にあるからと言っても、この毅然としない日本という国が、私は恥ずかしく、海外で「日本からきました」と言えないことがよくある。おまけに福島の事故が起こっているのに、まだ原発を再稼働しようとしている。日本っていう国はいったい何なのって思ってしまう。
あと一つは、国連の女性差別撤廃委員会から受けた勧告だ。以前にも書いたように、日本の女性差別意識は世界の中でもひどく、常に100位以下である。私は女性差別について50年以上も前から書いたり話したりしてきたが、旧態依然として変わらない。勧告の中で注目している2つ。1つは「選択的夫婦別姓」の導入だ。これは四度目の勧告になるが、いまだに「日本の家族間の絆が壊れる」とかで後ろ向きになっている政治家が多くいる。たぶん次期国会でも法案として上がる確率は高いが、どうなるかは不透明だ。あと一つは「選択議定書」の批准だ。差別を受けた被害者が、国内で救済されなかったら国連に直訴できる個人救済制度だが、世界115か国が批准しているのに、いまだに日本は見送り続けている。日本って本当に先進国なのだろうか。世界200国近くある中で、この差別的な事案がいまだに手つかずで残っているのに。これを島国根性というのかもしれない。こんな自虐的な言葉は使いたくない。ただ、世界を旅して、堂々と「日本から来ました」と言えるようになりたいと、常々思っているし、国連からこんな勧告を受けることを恥だと思う人が増えてほしいと心から願っている。
私はこれら以外にも多くある日本の封建的な考え方がどうしても好きになれないし、なじまない。そして旅に出て、周りから日本語が聞こえなくなると、どこか解放され、心底ビールが心までしみるのである。 (児童文学者 岸本進一)
~岸本進一先生PROFILE~
神戸市北区在住の児童文学者。著書「ノックアウトのその後で」(理論社)にて1996年日本児童文芸家協会新人賞受賞。その他、ひだまりいろのチョーク(理論社)・とうちゃんのオカリナ(汐文社)・はるになたらいく(くもん出版)など、著書多数。
小学校教諭として23年間勤務。故灰谷健次郎氏と長年親交があり、太陽の子保育園の理事長も勤めた。
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