㈱トムコ発行の情報紙(1996年~2019年発行)に掲載されたつぶやきから抜粋して随時皆様にお届けします。
今回は1998年3月のコラムです。
娘がポケモンのゲームをしている。表情の無い電子音楽が私の部屋まで届いてくる。「小さくしなさいと言ったでしょう」私はイライラした声で怒鳴ってしまう。
この年末、知人のパーティーの時いただいたものだ。今年は何がいい、と電話で聞かれた娘は、「ポケモンのゲームボーイ!」と、間髪を入れず答えた。「え~っ、ポケモンなんて知らんやろ」私が言うと、知ってるもん、と娘はポケモンの名前の歌をお経のように長々と歌い、何々は進化して何とかになり・・・・と話しだす。家では殆どポケモンが話題にのぼることはなかったものだから、驚いた。友達から得た知識なのだろう。
娘なりに必死なのかもしれないと思う。流行についていかなければ、仲間に入れないかもしれない。一人っ子で友達が欲しくて仕方のない娘には、それはつらいことだ。そんな気持ちがわかるから、ポケモンなどの流行り物が好きではない私も、強く否定することができなくなっている。
そういえば子どものいない時なら、クリスマス?フン、俺はクリスチャンじゃないんだからと見向きもしないし、人々の無節操さをむしろ腹立たしく見ていたのに、娘がクリスマスという言葉を口にしても積極的に否定しなくなっている。
心の片隅に、娘のために世間なみには、と思っている自分を、一人の人間として生きていく別の自分が冷ややかに見つめている図に随分悩まされてきた。
人と同じだという事を喜ぶのではなく、人と違うところをほめてやらねばと思いながら、なかなかそうはいかない親心のはかなさを感じる。その優柔不断さの“つけ”は子どもの未来にまわってくると思いながらも、世間という壁は厚いものだ。
ただ、私の価値観はきちんと伝えることにしている。私が、ポケモンやゲームボーイなんてあまり好きじゃないという事を、娘はようく承知しているはずだ。その上で、娘が出来得るかぎり自分で判断すればいい。娘は私とは違う人格なのだからと考えている。
~岸本進一先生PROFILE~
神戸市北区在住の児童文学者。著書「ノックアウトのその後で」(理論社)にて1996年日本児童文芸家協会新人賞受賞。その他、ひだまりいろのチョーク(理論社)・とうちゃんのオカリナ(汐文社)・はるになたらいく(くもん出版)など、著書多数。
小学校教諭として23年間勤務。故灰谷健次郎氏と長年親交があり、太陽の子保育園の理事長も勤めた。
Radish STYLE編集部
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