アジアが好きだ。アジアの人々、アジアの雑踏、アジアの遺跡が好きだ。ラオスを除き、インドまでの東南アジアをほぼ隈なく歩いたが、どこも私にとっては魅力的だった。インドを四十日かけて回り、帰国してA型肝炎で1年間を棒に振っても。アンコールワットを十数回訪れ、ある時高熱にうなされて肺炎になっても。ミャンマーのバガン遺跡群で、下痢のため倒れても。それでも死ぬまでにもう一度訪れたいという思いは今も変わらない。それらの遺跡群は、インドネシアのボロブドゥールやプランバナンを含め、私にとっては宝物に思える。日本の仏像にも素晴らしいものは多い。今までに見てきたマトゥーラ仏、ガンダーラ仏、ヒンドゥー仏の中でも日本の仏像群は精神性が高く、群を抜いている。
しかし、私は日本にアジアを感じない。アジアに共通する「いのち」の力強さを感じないからだ。文化的で生活しやすい環境ではあるが、すべてにおいて欧米化されすぎたからだろうか。アジアの市場の雑踏を歩いていると、鶏を売る老人からも、洋服を売りつける若者からも、屋台で麺を貪るおばちゃんからも「生きる」というエネルギーがむんむんと発散されている。先にあげた遺跡群も、その中に立つと不思議と人々の生活が肌に伝わり、生命力を感じるのだ。朽ち果てた遺跡の至る所に、「いのち」の力強さと同時に、人の一生と似て、滅びゆくはかなさや寂しさも感じるからなのかもしれない。私はアジアの人々、雑踏、遺跡群の中で「ああ、生きている」と大きく息を吸うことができる。彼らの生命力が私の中に注入されるのを確かめている。私はそれを戴き、日本に帰ってきて生活しているように感じていた。
ところがこのコロナ禍でもう二年近くどこにも行っていない。私のエネルギー源は尽き果ててきた。あーあ、と思っている時、はたと思いついた。タイマッサージだ。どこを訪れても毎日1・2回は行っていた。パタヤのソイ・ブッカオでは力強いおばちゃんのマッサージが100バーツ(約350円)。バンコクの高いところでも300バーツだから、毎日行ってチップをはずんでも大丈夫。おばちゃんの太い足で背中を踏まれながら至福の時間を過ごし、彼らのエネルギーを戴いていた。
日本ではかなり高いことは知っていたが、月に1度くらいならと思い、三日間徹底的に探した。その一つに「せいちょういん」とひらがなで書いてあるものがあった。「成長院」かい、ベタな名前だ、と思いながらホームページを見ると「青蝶院」とある。ん?と思って動画を見ると、「青い蝶を見ると幸せが来るという。お客さんに幸せな気分になって帰ってもらおう」という粋な命名だった。古民家の雰囲気、装飾品もいい。タイマッサージはチェンマイ(医学的に進んでいて、日本人の老後移住者も多い)で学んだらしく、理にかなったマッサージ論だ。PCR検査もし、感染対策もしっかりしている。秋からしばらく通院し、タイの話題に花咲かせながら至福の時間を過ごした。近頃は行けていないが、インスタによるとこの七月四日には南京町にタイ雑貨の販売も兼ねた新しい店をオープンするそうだ。その時までには私は二回目のワクチン接種も終えている。楽しみだ。
日本では生命力が弱くなった大人や子どもが多くなっているように感じる。どんなことでもいい。特に子ども達には好きなこと、のめり込めることを上手く見つけてやり、それを大切に育ててやることが必要だろう。私にとってのアジアのように。
~岸本進一さんPROFILE~
神戸市北区在住の児童文学者。著書「ノックアウトのその後で」(理論社)にて1996年日本児童文芸家協会新人賞受賞。その他、ひだまりいろのチョーク(理論社)・とうちゃんのオカリナ(汐文社)・はるになたらいく(くもん出版)など、著書多数。
小学校教諭として23年間勤務。故灰谷健次郎氏と長年親交があり、太陽の子保育園の理事長も務めた。
Radish STYLE編集部
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