人はどんなことでも心で思うのは自由だ。
しかし、一旦それを言葉に表したり、行動に移したりすると、人はそのことに責任を持たなければならなくなるし、それによって人間性や思想性を問われることになる。それは自明のことだとみんな認識しているはずなのだが、つい忘れてしまうことは多い。
よく議員さんたちが女性差別などの失言をし、後に撤回したり謝ったりしている。しかし撤回してその人の思想性が変わったのだとは誰も思っていないだろう。
先日も大阪の松井市長が「シニアが走るのを見ても一般の人はうれしくないもんね。知らんおじいさんが100mを20秒くらいで走るのが見たいか」と発言し、反発を呼んだらしい。「ワールドマスターズゲーム」についての発言で、その意義は否定しないと前置きしていたという。心の中で思うだけにしておけばいいものを。
また、ホリエモンこと堀江貴文氏が、ある餃子店に入り、「マスクの着用をしていない人は入店できません」ということに反発して、フェイスブックに書いた。「『ウチはマスクをしてないと入店できないんです』の一点張りで話が先に進まない。『面倒くさいんで入店しないでくれ!』とピシャリ。マジやばいコロナ脳。狂ってる。それに別にマスクの着用を拒否しているわけでもなく、ルールの厳しさを聞こうと思っているだけなのに、超失礼な対応をされて怒りに震えている」と。これが波紋を呼び、挙句の果てその店に攻撃が集中した。店主の奥さんはうつ病になり、店は休店せざるを得なくなったらしい。公人や有名人が発言する時は特に気を付けなければならないといういい例だろう。
しかし、単に友人同士の会話でも同じことだ。人間性や思想性は必ず出ていて、それによって友人として・・・ということを判断している。しかし、発言というのは内容だけではないような気もする。私が教師時代に嫌だったこと(今も嫌だが)は、陰でこそこそ言うことだった。公の場(職員会議)では何も意見を言わないのに、終わると、いろんな場でこそこそと文句を言う。私はそれがどんなに全うな意見でも絶対に耳を傾けない。ある時は「ちゃんと職員会議で言えよ」と、怒鳴ったこともある。
いわゆる陰口というのは本当にその人の品性を貶める。いわゆる「噂話」もこの部類に入るのだろう。が、私も家では女房と時々噂話をしてしまう。度が過ぎると、女房にたしなめられることもある。テレビを見ながら、しょっちゅう出演者に文句を言っている。特に政治家には常に反抗しながら見ている場合が多い。女房に「どうしてそうネガティブな発言ばかりするの」と、あきれられることもある。どうも私は品性の卑しい人間なのだ。
将来ボケたら自分の人間性が出てくることが多いらしい。私のごく親しい友人の父親が少しボケて入院した。その時、見舞いに来た息子の嫁の手を握り、「どなたか知らないけどよく来てくれたな」と、頬ずりをしたという。友人は、あーあおやじの女好きが出てきて、と話していた。でも友人、あんたもだろう、と言いたかった。どうしょう。私も心の中で思っている卑しいことが出てくるかもしれない。どうしょう、と今から心配でならない。
自分を律し、卑しいことを考えず、言動をコントロールする、というのは子どもの頃の教育、特に親が自分の背中を見せての教育の成果が大きいように思う。私の母親は貧しくても凛としていたのだが、私はどこで歪んじゃったのだろう。教育説はどうも当てにならないかもしれないが、世の中の親たち、背中、背中と気を付けたほうがいいとは思います。
~岸本進一さんPROFILE~
神戸市北区在住の児童文学者。著書「ノックアウトのその後で」(理論社)にて1996年日本児童文芸家協会新人賞受賞。その他、ひだまりいろのチョーク(理論社)・とうちゃんのオカリナ(汐文社)・はるになたらいく(くもん出版)など、著書多数。
小学校教諭として23年間勤務。故灰谷健次郎氏と長年親交があり、太陽の子保育園の理事長も勤めた。
Radish STYLE編集部
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