㈱トムコ発行の情報紙(1996年~2019年発行)に掲載されたつぶやきから抜粋して随時皆様にお届けします。
今回は1997年5月のコラムです。
先日8歳になる娘が、わたしの宝物って何やろ、としきりに考えていた。学校の宿題で、何か1つ持っていかなければならないそうで、いろいろ引っ張りだしてきた挙句、結局1歳の頃に着ていた、祖母に創ってもらったワンピースを持っていった。人形の服のように小さく、改めて娘の成長を思い、うなってしまった。
「ねえ、お父さんとお母さんの宝物は?」これも宿題だそうで、私たちは、「そりゃ、おまえさんに決まってるよ」と、ありきたりの答えを言っていた。
さて、娘に関して何か1つ宝物を持って来いと言われれば、私なら何を持っていくだろうか。臍の緒、足型・・・考えていると、「私なら、これ」女房が2階から紙包みを持ってきた。開けると32冊のノート。娘が太陽の子保育園時代に、家庭と園との連絡に使われたノートだ。私たち夫婦は家庭での子どもの様子を中心に、交代で書いた。園からは保母さん保父さんが、園での様子を本当に細かく見て、報せてくださった。
登園する間際になってウンコのおもらしをし、大騒動したこと。園で高い所から落ち、病院へ走ってくださったこと。懐かしく二人で読み耽っていると、女房が突然私の肩を叩いた。
「ねえねえ見て。あの子こんなこと言ってたんよ」と子どもが5歳の時のノートを見せる。
・・・寝る前に本を読んでやり、少しおしゃべりをしていると、「しほちゃんの心の中に、いっぱい色んな人が入ってるねん。地球よりも広いねん」と言っていました。一度のぞいてみたいものです。(母)
彼女は、たくさんの人に愛されて育ってきたことを、その記憶がなくとも、いつの日かこのノートで知ることだろう。そしてそれは明日へ生きる力になるに違いない。
保育園の方達と私達で作り上げたこの32冊のノート。やっぱり私もこれを持っていくかなと考えていた。
~岸本進一先生PROFILE~
神戸市北区在住の児童文学者。著書「ノックアウトのその後で」(理論社)にて1996年日本児童文芸家協会新人賞受賞。その他、ひだまりいろのチョーク(理論社)・とうちゃんのオカリナ(汐文社)・はるになたらいく(くもん出版)など、著書多数。
小学校教諭として23年間勤務。故灰谷健次郎氏と長年親交があり、太陽の子保育園の理事長も勤めた。
Radish STYLE編集部
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