㈱トムコ発行の情報紙(1996年~2019年発行)に掲載されたつぶやきから抜粋して随時皆様にお届けします。
今回は1997年1月のコラムです。
鶏がらでスープを取りながら本を読んでいた。と、そこへ電話。
用件の後に彼いわく。
「あんた、いつ電話しても居るなぁ。何しとるんや。・・・えっ、晩飯の中華鍋のスープを。おいしそうやないか。よし、今日行くわ。6時半頃でええか」
ということになった。
電話というのは、私生活に強引に割り込んでくるからいやだ、という人も多いが、私は好きだ。日がな1日本を読んだり、考え事をして座っていると、郵便やさんと電話と庭に来る小鳥を待つようになる。郵便配達のバイクの音は、見なくても分かるようになった。その音が私の家には止まらずに行き過ぎると淋しくなる。
電話にしても、自分からは滅多にかけないのに、かかってくるのは楽しみだ。ところがその電話恐怖症になったことがある。
発端はいたずら電話で、毎日のように夕方と夜、無言電話がかかってくる。なんとかこらしめようといろいろやってみたが、効果がない。
ある日の夕方。いつもの時間にベルがなった。よし、今日こそはと考えておいた手を使うことにした。受話器を取るなり私はできるだけ恐ろしい声で低く笑い続けた。「うっふっふっふっ・・・・」
そしてガチャン。やったぞ、ちょっとは恐かったろうとほくそ笑んでいるところへまたベルが鳴った。取るなりキンとした声。
「先生、今恐かったんよ。私、先生のところへかけたつもりが、番号を間違えたのか、つながるなり恐ろしい含み笑いが聞こえてきたんですよ。もう恐くて恐くて、まだどきどきしてる」私は声が出ない。受話器の向こうでは叫んでいる。「先生!先生!先生!先生のお宅ですよね。そうですよね!」
それから半年ぐらい恐怖症が続いたのである。
今では立ち直り、やっぱり電話が鳴るのを待っている。極端に出不精の私にとっては人と繋がる重要な線となっている。
~岸本進一先生PROFILE~
神戸市北区在住の児童文学者。著書「ノックアウトのその後で」(理論社)にて1996年日本児童文芸家協会新人賞受賞。その他、ひだまりいろのチョーク(理論社)・とうちゃんのオカリナ(汐文社)・はるになたらいく(くもん出版)など、著書多数。
小学校教諭として23年間勤務。故 灰谷健次郎氏と長年親交があり、太陽の子保育園の理事長も勤めた。
Radish STYLE編集部
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