「人生いろいろ」は、1996年から㈱トムコ発行の情報誌に掲載された、児童文学者岸本進一さんによるコラムです。過去140編の中から、時間の経過に関わらず楽しんでいただける作品を抜粋して随時皆様にお届けします。今回は1998年11月のコラムです。※ブログの最後にトムコからのお知らせがあります!
Vol.12 1998年 11月掲載
夏休み、沖縄の灰谷氏宅に家族でお世話になった。彼の家は沖縄本島の那覇から船で一時間と少し、渡嘉敷島という離島にある。慶良間の島々を見渡せ、眼下は珊瑚礁の湾になっている。珊瑚礁の海は日光の当たり方で、瑠璃色、ひわ色など、それこそ七色に変化し、楽しませてくれる。
朝、のんびりと朝食を取り、漁船で無人島へ向かう。珊瑚礁で取り囲まれた島へは船を着けることは出来ない。少し沖でアンカーを入れる。彼と漁師の中井さんは足ひれをつけ、水中銃を持って素潜りで魚を突きにいく。私達はそこから珊瑚のお花畑をゆっくり泳いで上陸する。数メートル下の海底までくっきりと見える透明な海。青、黄、ピンク、様々な色、形の触手をのばした珊瑚の間を、鮮やかな色の熱帯魚が泳ぎ回る。息をするのも忘れて見惚れてしまう。娘はいつの間にか浮き輪を離し、夢中で竜宮の世界を覗き込んでいた。
昼食は灰谷氏の突いてきた魚をその場で中井さんが料理し、持ってきたおにぎりとでいただく。うまい。
「無人島はいいんや。そやけど沖縄本島はひどいで。こんなに美しい珊瑚が見事に消え、海は無茶苦茶。開発という名の自然破壊やな。いのちの共存なんてまるで考えてへん。詩帆ちゃんが大きくなるまでこの美しい自然を残しててやれるかな」灰谷氏は遠くを見て言った。
西鈴蘭台からコープデイズへと新しい道が出来たのはほんの数年前だ。今度はその道の片側の緑が殆ど消え、大々的に宅地造成されている。こんなに次々と緑がなくなっていいんやろかと思う。
「緑が洪水を防ぎ、空気もきれいにしてくれてんねんやろ。虫も住めなくなるやん」と、娘が基本的なことを言う。山を削って宅地を作り、その土で海を埋め立て海の生態を変える。神戸のあちこちで起こっていることだ。私の家は造成地の一角にある。子供たちが遊べる緑を、心休まる緑を、多くの命を育んでいる緑や海を壊していくのに、私も加担しているようで空恐ろしく、腰が落ち着かない気分になる時がある。
(児童文学者岸本進一)
~岸本進一先生PROFILE~
神戸市北区在住の児童文学者。著書「ノックアウトのその後で」(理論社)にて1996年日本児童文芸家協会新人賞受賞。その他、ひだまりいろのチョーク(理論社)・とうちゃんのオカリナ(汐文社)・はるになたらいく(くもん出版)など、著書多数。
小学校教諭として23年間勤務。故灰谷健次郎氏と長年親交があり、太陽の子保育園の理事長も勤めた。
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