㈱トムコ発行の情報紙(1996年~2019年発行)に掲載されたつぶやきから抜粋して随時皆様にお届けします。
今回は2001年12月のコラムです。※ブログの最後にトムコからのお知らせがあります!
食事の後、いつものように爪楊枝を使っていたら、歯に被せていた金属がすぽんと抜けた。慌てて娘が世話になっている歯医者へ行った。診察椅子が倒れ、先生がこちらを向かれる。私はこれでもかというほど大きく口を開けた。娘が世話になっている。粗相があってはならない。
「岸本さん」「あい」私は口を開けたまま答えた。そしてさらに大きく口を開けて待ったが、診てくださる様子はない。私は耐えた。すると、あなたのことは娘さんから聞いていると前置きをして、おもむろに話し出された。「貧富の差は少なくなったっていいますけど、子どもの間にはすごくあるんですよねぇ」「あ?ああ、」私は口を開けたまま。「どうしたもんでしょうかねぇ」ようやく私は口を閉じ、続きを聞いた。小学校六年の息子のことだという。流行っているポケモンのカードを集めているが、プレミアのついたものでは、数十万もするものがあるとか。友達がそんなのを見せびらかすらしい。どんな家庭の子かと思いきや普通のサラリーマン家庭だという。
息子はその子が屋上から撒き散らすカードを小さい子に混じって拾っているらしいんです、とため息をつく。先生は話しながら答えを模索しているという風で、私はあえて私の考えを言わなかった。
家庭のあり方の差で子どもに貧富の差ができるというのはもっともだ。親は子に弱い。親はユニクロでも、子どもは高価なスポーツブランドのジャージや靴を身に着けていることも多い。その貧富の差は子ども間で様々な問題を引き起こす。携帯電話の問題もその一つだろう。一般的にいって、子どもは貧しい方が強くなる。と思っている私だが、時々子どもにせがまれてモノを買い、女房に叱られている。「どうして小遣いで買わせへんのよ。甘いんやから」と。だが、敢えて私の名誉のために言う。あの子も持っているからというねだりで買ったことはない。また、人よりええかっこできるからという発想もない。そのどちらで与えても彼女が生きていくうえで大きなマイナスになると思っている。ただ、ライオンはわが子を谷に突き落とすという発想にも私は希薄だ。私は貧乏という谷底で長い間うろうろしていたから、あんなつらい目はと思ってしまう。私は女房に叱られるとこそこそと逃げ、彼女の怒りが静まるのを待っているのです。
~岸本進一先生PROFILE~
神戸市北区在住の児童文学者。著書「ノックアウトのその後で」(理論社)にて1996年日本児童文芸家協会新人賞受賞。その他、ひだまりいろのチョーク(理論社)・とうちゃんのオカリナ(汐文社)・はるになたらいく(くもん出版)など、著書多数。
小学校教諭として23年間勤務。故灰谷健次郎氏と長年親交があり、太陽の子保育園の理事長も勤めた。
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今井令子
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