㈱トムコ発行の情報紙(1996年~2019年発行)に掲載されたつぶやきから抜粋して随時皆様にお届けします。
今回は2001年9月のコラムです。
この号が届く頃は夏休み真っ盛りといったところだろう。子ども達にとっては楽しい夏休みも、親にとっては苦痛の一つになっているのが宿題。「宿題多いやろ、先を見越してやらんと。大丈夫か。今日は何をやったん」「・・・・」「自由研究やること決まったか」「・・・・」。そういえば教師時代、5年生を担任していた時のこと、こんなことがあった。
私は夏休みに一律の宿題は出さず、個人のやりたいことを一人一人相談して決めていた。夏休み明け、その課題を集めていて、ある男の子の作品に目が止まった。ゴム動力で動く車なのだが、市販のセットではなく、それぞれの部品が全部手作りであることは一目で分かった。プロペラ部分は竹とんぼの応用で、竹を削って創り、タイヤは牛乳のふたを張り合わせたもの・・・と。実際に走らせてみると、少し癖があって左へ左へ寄って行くが、なかなか軽快に長距離を走った。思わず拍手がおこる。「すごい!なかなかいいもんできたな」その子は恥ずかしそうに笑っただけで何も言わなかった。その作品を理科展に出そうと思い、了承を得る為その子を呼んだ。ところがその子は、いえ、いいですと言ったきり黙っている。そうかと思い、尋ねた。「手伝ってもらったから?」その子は黙って頷いた。正義感の強い子で、うつむいている目に涙が溜まっている。「そうか、じゃ、やめとこう。で、誰に?」その子は3年生の時に母親を亡くしている。お父さんはある大会社の営業で、お盆の休みも取れないほど忙しい。一人で可哀想だが、すぐ近くに親戚がいて、夕食もしてくれるしと懇談会の時に話していた。ところが、この宿題のためにお父さんが無理をして夏の終わりに休みを取ったという。材料集めから制作までまるまる2日、べったり一緒にやったらしい。その時の様子を聞くと、その子は楽しそうに2人で行った素材の買い物のこと。制作の時、お父さんともめたことなどを話してくれた。私は聞いていて涙をこらえるのに必死だった。「よかったやん。この作品は出品はしないけど、とっても大切ないい作品やと思うで」その子は安心したように頷いた。
夏休み。すべて子どもの力でと思わなくてもいい。親と子の共同作業、それもまた夏休みの宿題のあり方だと思えるようになった一件だった。
~岸本進一先生PROFILE~
神戸市北区在住の児童文学者。著書「ノックアウトのその後で」(理論社)にて1996年日本児童文芸家協会新人賞受賞。その他、ひだまりいろのチョーク(理論社)・とうちゃんのオカリナ(汐文社)・はるになたらいく(くもん出版)など、著書多数。
小学校教諭として23年間勤務。故灰谷健次郎氏と長年親交があり、太陽の子保育園の理事長も勤めた。
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