「人生いろいろ」は児童文学者の岸本進一さんによるコラムです。1996年から㈱トムコ発行の情報紙に掲載された140編の中から抜粋して随時皆様にお届けします。
今回は1999年11月のコラムです。
いきなり問題です。次の〔 〕によいことばを入れてください。
そっとうた 谷川俊太郎
そうっとそっと/〔 ① 〕に/ゆきふるように
そうっとそっと/〔 ② 〕が/そらとぶように
そうっとそっと/こだまが たにまに/きえさるように
そうっとそっと/ひみつを みみに/ささやくように
紙面の都合上改行もせず、節の行開けもしていない。私はこの問題を小学生から大学生にまで、良く授業で取り扱う。
国語科では美術や音楽と同じように、答えが一つではない場合がある。谷川俊太郎はどういう言葉を使ったかと問うなら、答えは一つだ。それを学習することも大切だが、自分らしさを磨くために、自分ならどういうことばを入れるかを考えることはもっと大切なことだと思っている。
先日大学でこの問題をした後、谷川俊太郎のことばを発表すると、一斉に筆箱を開け、メモする姿が見られた。受験国語に慣れてきた彼女達は一つの答えが見つからなければ落ち着かないのだ。勿論この問題を楽しんでいる子もいる。しかし、考えても何も出てこないという感受性のやせ細ってしまった子も多い。良い成績をとることに力を入れ、一つの答えを出すことにあくせくしていると、感受性は痩せる。メダカの群れのように、集団からはみ出ることを恐れていても同じだ。感受性が痩せ細るということは、言い換えれば自分ならこうするという意思が希薄になっていくということになる。
世の中で起こる様々な問題は、答えが一つということは少ない。多角的にその問題をとらえ、自分ならどうするかを考えなければならない。そんな力の弱くなった指導者、教師、大人が多くなっているような気がするのだが、どうだろうか。
ちなみに、谷川俊太郎は①には〔うさぎの せなか〕②には〔たんぽぽ わたげ〕を入れている。みなさんはどんなことばを選んだでしょうか。
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今井令子
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