㈱トムコ発行の情報紙(1996年~2019年発行)に掲載されたつぶやきから抜粋して随時皆様にお届けします。
今回は1999年3月のコラムです。
見られた方も多いと思うが、1月10日の日曜日、子ども達の声を聞きながら教育を考えるというNHKの番組があった。朝から夜までぶっ通しで、全部を見ることは出来ず、私は朝昼夕に1時間ずつ見た。
おもしろかったのは、中高生が文部大臣(現・文部科学大臣)と話し合うところだった。文部大臣がいつ強く怒りを表すかとハラハラしたが、彼は忍耐強く子ども達と話した。話し合いは、具体的に質問し、意見を言う子ども達に対し、抽象的で焦点の合わない答弁をする大臣といった図が多く、政治と現実とのギャップの大きさを改めて認識させられたが、中にいくつか子ども達に拍手を送りたい場面があった。その一つに、ある女子中学生の意見がある。その子は銀の指輪を2つもはめていて、何やこいつと思ったが、話しだすとそのしっかりした物言いに驚いた。通知表の評価の事だった。性格の評価にいくつかの項目があり、そこにマルを入れられるのだが、例えば『明朗快活』という欄にマルがなかったら、じゃ、もの静かな子っていうのは悪いっていうことになるじゃないですかって言う。文部大臣はたじたじで、それではどうしたらいいのと切り返した。文章で評価していただきたいんですと、その子は臆せずにさっと答えた。
かつて私が教師をしていた時、あるお母さんが懇談会で泣いたことがある。あの子は一言も喋らない、おかしいんじゃないかとずっと言われ続けたけど、先生は言わなかった。どんなに肩の荷が軽くなったかと言う。そういえば一学期間にその子の声を聞いたのは1,2度だったような気がするが、私は子ども達に毎日日記を書いてもらっていたので気にならなかったのだろう。
人間の欠点というのは見方を変えれば長所になることもあり、その逆も有り得るということは誰もが分かっている。それなのに人を評価するという、いってみれば恐ろしいことをしている通知表で、簡略化するために項目を並べて評価をしていた。いいところを見つけてほめてやることが必要ですよねと言いながら、項目にマルの付かないことの意味にまで考えが及んでいなかったことに気付き、はっとさせられた。
番組の後半で大臣はその子の発言をはっきりと評価した。私は大臣をちょっとだけ見直した。
~岸本進一先生PROFILE~
神戸市北区在住の児童文学者。著書「ノックアウトのその後で」(理論社)にて1996年日本児童文芸家協会新人賞受賞。その他、ひだまりいろのチョーク(理論社)・とうちゃんのオカリナ(汐文社)・はるになたらいく(くもん出版)など、著書多数。
小学校教諭として23年間勤務。故灰谷健次郎氏と長年親交があり、太陽の子保育園の理事長も勤めた。
Radish STYLE編集部
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