『自分につながる「生」を自覚し、人を慈しむことのできる優しい人間として生きる道を模索することが、「知」を持つ人間のつとめかもしれない』
灰谷健次郎著「優しい時間」より
以前にも書いたが、医者通いに明け暮れる毎日だ。そんな日々の通い道、この言葉をよく思い出す。先日書いたお尻から足への激痛の原因は、MRIの結果、坐骨神経根にできた嚢胞のせいだった。診察していただいた整形の先生は、硬いコルセットで固定して生活するのがいいということで、採寸までした。ところが、皮膚が極端に弱い私は、その前に同じ医者の進めるままに買ったゴムのコルセットで、サラシの上に巻いているにもかかわらず、湿疹だらけになった。皮膚科の先生はコルセットをつけるとそこが傷になるだろうという。急いでコルセットをキャンセルした。整形の先生にそう伝えると、先生は私の顔も見ず、パソコンの画面を見ながら言った。「兄さん、コルセットを付けるっていったやろ」と一言。兄さん・・えっ? そういえば長く診ていただいているその先生と目を合わせた記憶は2・3度しかない。医者は「知」の象徴だろう。もう少し人を慈しむ優しい人間であれば、私の苦しみに少しは寄り添ってもらえたかもしれない。「それじゃ6か月後か3か月後に。どちらにする」「はい、3か月後にお願いします」と言ったが、後で考えれば、その間私はコルセット無しにどうして暮らしゃいいのだろう。信頼できる医師も多いが、医学部に「人間性向上」科を設置してよと思うことも多い。
政治家達も「知」の象徴であるべきだろう。今までも期待はしていなかったが、このコロナ禍でさらに感じた。もう少しこの言葉を意識できるような政治家が多かったならば、私は、新聞やテレビを見ながら、こんなにいらいらしたり憤ったりすることはないのに、と。
前年で灰谷健次郎没後15年になる。しかし、灰谷の残した「ことば」の賞味期限は切れていない。
『あんたの人生がかけがえのないように、この子の人生もまたかけがえがないんだよ。ひとを愛するということは、知らない人生を知るということでもあるんだよ』 同「太陽の子」より
『ほんとに小さな日常の中で、子どもの「生」をともにいきる大人たちがいたならば、こんにちの子どもの不幸も少しは救われるのにという思いを持つのは、わたしひとりではない』 同「島で暮す」より
彼とは40年もの間、友人として接してきたが、彼の生活の中心は「子ども」だった。そこへ兄の自死により「いのち」の重さが入り込む。そして子どもは「いのち」の象徴であることを強く感じ、その2つを中心に彼の作品は生まれた。子どもの「いのち」がいつまでも輝くことを願い、兄の「いのち」を永遠に自分の中に生かそうとした。しかし、子どもを取り巻く環境は今も変わらず悪い。いや、このコロナ禍で人と肌を合わせたり、屈託なく喋ったりすることが極端に少なくなった分、最悪と言えるかもしれない。彼はおそらく今こそ次のように叫びたいであろう。
『いのちはなやぐとある人はいったが、いのちは燃えるものであり、いのちは歌うものである。そうある社会をつくりたいと心より願う』
同「優しさとしての教育」より
~岸本進一先生PROFILE~
神戸市北区在住の児童文学者。著書「ノックアウトのその後で」(理論社)にて1996年日本児童文芸家協会新人賞受賞。その他、ひだまりいろのチョーク(理論社)・とうちゃんのオカリナ(汐文社)・はるになたらいく(くもん出版)など、著書多数。
小学校教諭として23年間勤務。故灰谷健次郎氏と長年親交があり、太陽の子保育園の理事長も勤めた。
Radish STYLE編集部
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